体に起こる変化

 前回、私たちはいま、人類が未だかつて経験したことのない大きな変化を生きているというお話をしました。今回は、このわずか50年くらいの間に起きた変化の例を考えてみましょう。
例えば鉄道。50年前にはまだ多くの蒸気機関車が走っていました。これを運転するには、最低2人が一致協力する必要があります。とにかく電気で動くものはありません。すべて乗務員が手でレバーやバルブを操作して動かします。

 機関士が大きくて重い加減弁を握って前に引くと動輪が回り始めますが、つないでいる貨車や客車が重いと空転して進めません。それで空転しそうなぎりぎりのところまで弁を開けて、できるだけ速く、しかし絶対に空転させないよう加速させます。そうしながらもう一方の手で大きなハンドルを回し、速度に合わせてギヤ比を変えていきます。同時に空転しそうになったら瞬時に線路に砂を撒けるよう、砂撒き装置にも手をかけておきます。
機関助士は使われる蒸気の量を全身で感じ取りながら、この先の坂道の具合などを勘案して石炭をくべていきます。同時にオイルや水の量も常に調節します。その日の機関士の運転の仕方で、あらゆる操作が変わってきます。ここが、機関士と助士は協調しないとうまく走らないと言われる所以です。

 こんなことをしながら、現在位置と時刻を頻繁に確認し、信号を確認し、定時運転を続けます。下り坂では機関車と後ろの客車・貨車とには別々にブレーキをかけて速度を一定に保ち、その日の気象条件と荷の重さに合わせて停止距離を考えます。

 機関車は常に激しく揺れ、たくさんのバルブやハンドルを操り、機関車の調子や動輪の動きを全身で感じ取りながらその瞬間瞬間に合わせて運転操作をしていくのです。
これが今はどうでしょう。

 そもそも機関車が客車を引くことは特殊な例を除いてなくなりました。どれも電車かディーゼルカーです。運転士は一人。操作するレバーは一つだけ。手前に引けば動き、前に押せばブレーキ。これだけです。何もかもがコンピュータ制御で、運転士の感覚が必要とされる要素は格段に減りました。システムが運転士にやることを指示し、運転士はその通りに操作します。

 50年前の乗務員と今の乗務員、体も脳も使い方には格段の違いがあることがわかりますね。ちなみに新幹線は、運転士が自分の手でブレーキをかけるのは、停止する直前の数十メートルだけで、あとはシステムが自動的にやってくれるのだそうです。